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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)2996号 判決

大阪府大東市太子田三丁目三番二四号

原告

株式会社トーセパ

右代表者代表取締役

松田忠広

大阪市城東区放出西三丁目一四番九号

原告

松田工業株式会社

右代表者代表取締役

松田隆博

右両名訴訟代理人弁護士

玉井眞之助

大分県大分市大字森町二〇番地の三〇

被告

亀井嘉征

大阪府門真市大字上馬伏四二六番地の一

被告

伸光企業株式会社

右代表者代表取締役

中尾治

大阪府門真市大字上馬伏四二六番地の一

被告

ホーシンプロダクト株式会社

右代表者代表取締役

中尾治

右三名訴訟代理人弁護士

露口佳彦

主文

一  被告亀井嘉征は、原告株式会社トーセパに対し、金二〇三〇万円(金二五五万一六一三円の範囲では被告ホーシンプロダクト株式会社と連帯して)及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告亀井嘉征は、原告松田工業株式会社に対し、金二〇三〇万円(金二五五万一六一三円の範囲では被告ホーシンプロダクト株式会社と連帯して)及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告ホーシンプロダクト株式会社は、原告株式会社トーセパに対し、被告亀井嘉征と連帯して金二五五万一六一三円及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告ホーシンプロダクト株式会社は、原告松田工業株式会社に対し、被告亀井嘉征と連帯して金二五五万一六一三円及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らの被告亀井嘉征及び被告ホーシンプロダクト株式会社に対するその余の請求並びに被告伸光企業株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、原告らと被告亀井嘉征との間においては、原告らに生じた費用の五分の一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告ホーシンプロダクト株式会社との間においては、原告らに生じた費用の二〇分の一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告伸光企業株式会社との間においては原告らの負担とする。

七  この判決の第一ないし第四項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告らは、連帯して、原告株式会社トーセパに対し、金一億二七六〇万円及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告松田工業株式会社に対し、金六六五五万円及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  仮執行の宣言

第二  事案の概要

本件は、原告らが、

〈1〉  被告らは共謀のうえ、被告亀井嘉征(以下「被告亀井」という。)において、無効原因のある実用新案権に基づき、原告らを相手方として、原告松田工業株式会社(以下「原告松田工業」という。)が製造して原告株式会社トーセパ(以下「原告トーセパ」という。)に販売し、同原告が販売代理店に販売していた別紙イ号図面説明書記載のジョイント式コンクリート型枠用セパレータに使用される中間バーNT三〇〇〇(以下「本件Tバー」という。)は右実用新案権に抵触するとして、製造販売の禁止及び執行官保管の仮処分を申請し、その旨の決定を得て直ちに執行し、次いで原告らが右仮処分決定の取消を求めて申立てた仮処分異議訴訟に応訴し、〈2〉 被告伸光企業株式会社(以下「被告伸光企業」という。)は、被告亀井から右実用新案権について専用実施権の設定を受け、被告亀井とともに、原告らを相手方として、本件Tバーの製造販売の禁止及び右専用実施権の侵害による損害賠償金の支払を求める本案訴訟を提起し、〈3〉 被告伸光企業と代表者を共通にする被告ホーシンプロダクト株式会社(以下「被告ホーシンプロダクト」という。)は、仮処分異議訴訟の一審判決後被告亀井から右実用新案権を譲り受け、控訴審に係属中の仮処分異議訴訟に承継参加したが、

その後、仮処分異議訴訟については、控訴審判決によって、仮処分決定を認可した一審判決及び仮処分決定が取り消されるとともに仮処分申請が却下され、右実用新案権についても、特許庁においてその考案の実用新案登録を無効とする旨の審決があり、被告ホーシンプロダクトの提起した審決取消訴訟において請求棄却の判決が確定したから、

結局、〈1〉の被告亀井の仮処分申請及び執行は被保全権利を欠く違法なものであるとともに、同被告の仮処分異議訴訟における応訴も違法であり、〈2〉の被告伸光企業の本案訴訟の提起、及び〈3〉の被告ホーシンプロダクトの控訴審における仮処分異議訴訟への承継参加も違法であり、これら被告らの一連の不法行為の結果、原告らは仮処分決定の日から仮処分異議訴訟の控訴審におけるその取消判決の日までの間、本件Tバーを製造販売することができず、得べかりし利益を喪失した

と主張して、被告らに対し、その間にそれぞれが被った逸失利益(原告トーセパは一億二七六〇万円。原告松田工業は六六五五万円。)の損害賠償及び右各金員に対する右取消判決の日の翌日である平成三年三月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【事実関係(証拠等を掲記した部分以外は争いがない。)】

一  被告亀井が実用新案登録を受けていた考案

1 被告亀井は、次のとおりの実用新案登録を受けていた(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)。

考案の名称 ジョイント式コンクリート型枠用セパレータ

出願日 昭和五二年一二月二日(実願昭五二-一六二六四二号)

出願公告日 昭和六〇年四月三日(実公昭六〇-九三三四号)

設定登録日 昭和六〇年一〇月九日

登録番号 第一六一二九一三号

実用新案登録請求の範囲

「一端に隣接コンクリート型枠3、3の接当端面間に挿入して離脱可能に係止固定される係止部1aを有し、かつ、他端に長尺バー接続部1cを有する二つのジョイント台1、1と、これら二つのジョイント台1、1の接続部1c、1cにピン4、4を介してその長手方向両端部を接合可能な中間バー2とからなるジョイント式コンクリート型枠用セパレータであって、前記両ジョイント台1、1の各接続部1c、1cの夫々にその長手方向に沿って適宜ピッチで複数のピン接合孔1d、1d……を設けるとともに、前記中間バー2は、一定の長尺物で、かつその長手方向に全長に亘って、前記両ジョイント台1、1に形成したピン接合孔1d、1d……のピッチと異なるピッチで多数のピン接合孔2a……を形成し、前記ジョイント台1、1のピン接合孔1d、1dと必要寸法に切断した中間バー2のピン接合孔2aとの選定した孔1d、2aにピン4、4を挿入すべく構成した、中間バー2と二つのジョイント台1、1とからなるジョイント式コンクリート型枠用セパレータ。」(別添公報(1)〔以下「本件公報」という。〕参照)。

2 本件考案の構成要件

本件考案の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。

A 一端に隣接コンクリート型枠3、3の接当端面間に挿入して離脱可能に係止固定される係止部1aを有し、かつ、他端に長尺バー接続部1cを有する二つのジョイント台1、1と、これら二つのジョイント台1、1の接続部1c、1cにピン4、4を介してその長手方向両端部を接合可能な中間バー2とからなるジョイント式コンクリート型枠用セパレータであって、

B 前記両ジョイント台1、1の各接続部1c、1cの夫々にその長手方向に沿って適宜ピッチで複数のピン接合孔1d、1d……を設けるとともに、

C 前記中間バー2は、一定の長尺物で、かつ、その長手方向に全長に亘って、前記両ジョイント台1、1に形成したピン接合孔1d、1d……のピッチと異なるピッチで多数のピン接合孔2a……を形成し、

D 前記ジョイント台1、1のピン接合孔1d、1dと必要寸法に切断した中間バー2のピン接合孔2aとの選定した孔1d、2aにピン4、4を挿入すべく構成した、

E 中間バー2と二つのジョイント台1、1とからなるジョイント式コンクリート型枠用セパレータ。

二  本件考案の実用新案登録の無効

1 先願考案の存在

本件考案の実用新案登録出願の前に、被告亀井の実用新案登録出願に係る次の考案(以下、その実用新案登録請求の範囲〈1〉項記載の考案を「先願考案」という。)が存在した(甲第五号証、第二三号証)。

考案の名称 コンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具

出願日 昭和五一年一一月二日(実願昭五一-一四八三八五号)

出願公告日 昭和五五年一〇月一六日(実公昭五五-四四一一七号)

設定登録日 昭和五六年七月三一日

登録番号 第一三八八九六一号

実用新案登録請求の範囲

「〈1〉 所定間隔隔てて位置するコンクリート型枠に対する一対のジョイント台2、2の中間に位置してこれら両ジョイント台2、2を互いに接続する中間接続金具であって、長手方向に沿う凹条とした補強凹部を一体的に形成するとともに、少なくとも長手方向両端寄り位置において、夫々、前記両ジョイント台2、2に対する接続部3'、3'を、その長手方向に沿って適当間隔隔てて複数個形成してあることを特徴とするコンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具。

〈2〉  前記補強凹部は、金具長手方向全長に亙って、断面U字状又はほぼU字状に形成されたものである実用新案登録請求の範囲〈1〉項記載のコンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具。

〈3〉  前記接続部3'、3'……は、ピン挿通孔に形成されたものである実用新案登録請求の範囲第〈1〉項又は第〈2〉項記載のコンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具。

〈4〉  前記接続部3'、3'……は、断面U字状又はほぼU字状補強凹部の対向両側壁部において、同一位相個所に形成されたものである実用新案登録請求の範囲第〈2〉項又は第〈3〉項記載のコンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具。」(別添公報(2)〔以下「先願公報」という。〕参照)。

2 先願考案の構成要件

先願考案の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。

a  所定間隔隔てて位置するコンクリート型枠に対する一対のジョイント台2、2の中間に位置してこれら両ジョイント台2、2を互いに接続する中間接続金具であって、

b  長手方向に沿う凹条とした補強凹部を一体的に形成するとともに、

c  少なくとも長手方向両端寄り位置において、夫々、前記両ジョイント台2、2に対する接続部3'、3'を、その長手方向に沿って適当間隔隔てて複数個形成してあることを特徴とする

d  コンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具。

3 本件考案の実用新案登録の無効審決の確定

原告松田工業は、昭和六三年六月二一日、被告亀井を被請求人として、特許庁に対し、本件考案の実用新案登録の無効審判を請求し、昭和六三年審判第一一二八八号事件として審理され、その間、被告ホーシンプロダクトは、平成元年一〇月二日被告亀井から本件実用新案権を譲り受け、平成二年一月一〇日特許庁長官に対しその旨の移転登録の申請をしたところ(同年二月二六日移転登録)、同年六月一五日、本件考案は、先願考案と同一であり(本件考案の構成要件Aと先願考案の構成要件a、同じくBないしDとc、Eとdはそれぞれ実質的に同一であり、かつ、本件考案は先願考案の構成要件bを具えている。)、実用新案法七条一項の規定に違反して登録されたもので、同法三七条一項一号に該当するとの理由により、本件考案の実用新案登録を無効とする旨の審決があり(以下「本件無効審決」という。)、その謄本は同年八月二三日被告ホーシンプロダクトに送達された(甲第三号証、第五号証)。

被告ホーシンプロダクトは、平成二年九月一八日、本件無効審決の取消訴訟を提起したが(東京高等裁判所平成二年(行ケ)第二〇一号審決取消請求事件)、東京高等裁判所は平成四年一〇月二七日請求棄却の判決を言渡し、右判決が確定したので、本件無効審決は確定した。

三 原告らの本件Tバーの製造販売

原告松田工業は、昭和六一年一一月から、本件Tバーを製造して原告トーセパに販売し、同原告はこれを販売代理店に販売していた(原告松田工業製造販売に係る中間バーは、別紙イ号図面に記載のとおり、折り曲げられて二重になった垂直部2bとその上端に左右の鍔2c、2cを有する断面T形のTバーとして形成され、その長手方向全長の長さは、二〇〇mm、三〇〇mm、四〇〇mm、五〇〇mm、七〇〇mm、九〇〇mm、一一〇〇mm、一五〇〇mm、二五〇〇mm、三〇〇〇mm、三二〇〇mm、三五〇〇mm等、長短十数種類ある。このうち長さ三〇〇〇mmのものを「NT-三〇〇〇」と呼称しており、これが本件Tバーである。甲第一号証、弁論の全趣旨)。

四 被告らの行為

1 被告亀井の行為

(一) 被告亀井は、昭和六一年五月一七日、原告らを被申請人として、大阪地方裁判所に対し、長さが三〇〇〇mmの製品(本件Tバー)のみならず、長さが一一〇〇mm、一三〇〇mm、一五〇〇mmのものなどすべての長さの中間バー製品を対象として、右各製品は本件考案に係るジョイント式コンクリート型枠用セパレータの製造にのみ使用するものであり、原告らが右各製品を業として製造販売する行為は本件実用新案権のいわゆる間接侵害行為となると主張して、右各製品の製造販売の禁止及び執行官保管を求める仮処分申請をした(同裁判所昭和六一年(ヨ)第一九五六号実用新案権侵害禁止仮処分申請事件。以下「本件仮処分申請」という。なお、同被告はその後本件仮処分申請の趣旨を変更し、長さ三〇〇〇mmの本件Tバーのみに仮処分対象を限定した。)(甲第八号証、第一六号証、弁論の全趣旨)。

同裁判所は、昭和六三年一〇月一九日、本件仮処分申請を認容し、「原告トーセパは本件Tバーを販売してはならない。原告松田工業は本件Tバーの製造販売をしてはならない。本件Tバーについての原告らの、及び本件Tバーの半製品についての原告松田工業の各占有を解いて、大阪地方裁判所執行官にその保管を命ずる。」との仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)を発令し、同月二七日、本件仮処分決定が執行された。

(二) 原告らは、昭和六三年一一月一一日、大阪地方裁判所に本件仮処分決定の取消を求めて異議を申し立て、被告亀井はこれに応訴したが(昭和六三年(モ)第五四七六一号仮処分異議申立事件)、同裁判所は、平成元年九月二〇日本件仮処分決定を認可する旨の判決を言い渡した。

(三) 原告らは、大阪高等裁判所に控訴し(平成元年(ネ)第二〇〇九号仮処分異議控訴事件)、被告ホーシンプロダクトは、前記二の3のとおり被告亀井から本件実用新案権を譲り受け、平成二年一二月、右仮処分異議控訴事件に承継参加し(平成二年(ネ)第二四六二号承継参加事件)、被告亀井は右訴訟から脱退した。同裁判所は、平成三年三月二〇日、本件無効審決がなされたことを理由に被保全権利の疎明が十分でないとして、原判決を取り消したうえ、本件仮処分決定を取り消して被告亀井(脱退前被控訴人)の地位を承継した被告ホーシンプロダクト(承継参加人)の本件仮処分申請をいずれも却下する旨の判決を言い渡し、右判決は確定した。

2 被告伸光企業の行為

被告伸光企業は、昭和六一年四月一三日、被告亀井から本件実用新案権について専用実施権の設定登録を受けたうえ、平成元年一二月五日、被告亀井とともに、原告らを相手方として、大阪地方裁判所に対し、本件Tバーは本件考案に係る物品の製造にのみ使用するものであり、原告らがこれを業として製造販売する行為は本件実用新案権の間接侵害行為となると主張して、本件Tバーの製造販売の禁止と一八〇〇万円の損害賠償を求める訴えを提起した。

3 被告ホーシンプロダクトの行為

被告ホーシンプロダクトは、被告伸光企業と代表者を共通にする株式会社であり、前示のとおり、平成元年一〇月二日被告亀井から本件実用新案権を譲り受け、平成二年二月二六日その旨移転登録を経由し、同年一二月、控訴審において前記1の仮処分異議訴訟に承継参加した。

【争点】

一 被告らの前記四の1ないし3の各行為は原告らに対する不法行為を構成するか。

二 前項が肯定された場合、被告らが原告らに対し賠償すべき損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点一(被告らの第二の【事実関係】四の1ないし3の各行為は原告らに対する不法行為を構成するか。)について

【原告らの主張】

1 無過失責任

保全処分は、被保全権利の存在を終局的に確定することなく、疎明だけで、債権者の一方的利益のために発せられるものである。しかも、保全処分が一旦発せられると、債権者は極めて有利な立場に立つのに対し、債務者は終始受け身で劣勢な立場に追いやられ、莫大な損害を被る場合が多い。そのようにして債務者が被った損害は、後に被保全権利の存在が確定した場合はこれを甘受すべきであるが、逆に被保全権利の不存在が確定した場合、債務者は、結果として全くいわれのない強制を受けたことになるのであるから、右損害が債権者によって完全に賠償されなければ、著しく法的正義に反することになる。したがって、仮執行宣言付判決が後に変更された場合における債権者の無過失損害賠償責任を認めた民訴法一九八条二項を類推適用して、債権者は、故意過失の有無を問わず、保全処分によって債務者が被った全損害を賠償すべき義務があるものと解すべきである。

本件実用新案権は本件無効審決の確定により初めから存在しなかったものとみなされ、本件仮処分決定の被保全権利の不存在が確定したにもかかわらず、本件仮処分決定(自体)及びその執行により、原告らは、後記のとおり莫大な営業上の利益を喪失したのみならず、被告らに対する損害賠償金の長期分割支払を内容とする和解案の検討を余儀なくされ、さらに、商取引上も、原告らと取引をすると刑事事件になるというような、原告らの取引先に対する被告らのセールストークも甘受せざるを得ない立場に追い込まれ、特に、原告松田工業は本件仮処分決定が原因で倒産のやむなきに至るなど、社会的にも経済的にも甚大な打撃を被ったのに対し、被告らは、競争相手である原告らの製品(本件Tバー)の製造販売を禁止することができた結果、自らの製品の売上を伸ばし、多額の利益を確保したのである。したがって、被告らは、故意過失の有無を問わず、本件仮処分決定(自体)及びその執行と相当因果関係に立つ原告らの損害を賠償すべき義務がある。

2 過失責任

(一) 仮に前項の主張が認められないとしても、被告らは、原告らに対し、本件実用新案権を被保全権利として本件仮処分決定を得てその執行をしたのであるが、本件実用新案権は本件無効審決の確定により初めから存在しなかったものとみなされ、本件仮処分決定(自体)及びその執行は被保全権利の存在しない違法なものとなったのであるから、他に特段の事情のない限り、被告らにおいて過失があったものと推認するのが相当であり(最三小判昭和四三・一二・二四民集二二巻一三号三四二八頁)、そして、以下のとおり、本件においても右の特段の事情は存在しない。

被告亀井は、昭和五八年九月三〇日、大阪地方裁判所に対し、先願考案の実用新案権を被保全権利とし、原告松田工業及び訴外東京セパレーター株式会社を被申請人として、本件Tバーと同一用途を有するチャンネルバーについて製造販売禁止の仮処分を申請した。しかし、被告亀井は、一般にコンクリート型枠用部材の業界では、特許や実用新案登録によって技術が守られていないことに目をつけ、特許や実用新案登録の出願をしているだけで競業者に対して優位に立てるとの安易な考え方から、海外の技術雑誌に掲載されているコンクリート型枠用部材の写真等を見つけると、部下に指示してそのまま盗用して出願をしたり、あるいは既に商品として大量生産して市場に出回っているものでもひとまず出願手続をしておいて、エンドユーザーなどに対して膨大な特許権や実用新案権を保有しているかのように宣伝広告をしており、原告松田工業は、日頃からそのことを直接見聞していた。特に、先願考案については、出願前の昭和五一年一〇月までに被告亀井の経営する株式会社豊進製作所が商品として大量生産し、出願の前月には、共栄製鉄株式会社、福岡製紙株式会社等の大手販売代理店を通じて市場で月間六万本も販売しており、公共工事にも使用されていた。原告松田工業らは、右仮処分事件においてそのことを株式会社豊進の帳簿やその当時の営業担当者(東京セパレーター株式会社の代表取締役)の資料等によって疎明し、先願考案は実用新案法三条一項一号、二号の規定に該当し、その実用新案登録には明らかな無効原因がある旨主張した。その結果、被告亀井は、昭和五九年二月八日に至り右仮処分申請を全部取り下げた。

右仮処分申請の対象製品は、被告らの主張するように、本件仮処分申請の対象製品である長さが三〇〇〇mmの「NT-三〇〇〇」(本件Tバー)とは異なるが、コンクリート型枠用セパレータに使用される中間バーであることに変わりはなく、本件Tバーと酷似し、本件考案も目的、作用効果において先願考案と格別な差異があるとも認められないから、被告らとしては、本件仮処分申請に際し、原告らから前の仮処分申請事件におけると同じ反論が出されるであろうことは当然に予想し得たものである。しかも、本件Tバーは、被告亀井が従来から製造販売してきた断面U字型の製品とは異なり、次のような画期的な改良点を有するものであった。

〈1〉 ジョイント台の接続部1Cに中間バー2をピン4により接合した場合に、ピン4を支点に屈曲するような荷重がかかったとき、中間バー2の鍔2Cとジョイント台1が重なり、かつ、垂直部2bの下端部は溝1eの底部において支持されるため、左右の鍔と底部との三点で支持することになり、余分な屈曲を防いで曲げモーメントを小さくできるという強度上のメリットが期待できる。

〈2〉 断面U字型の製品に比べ、T型の垂直部は幅が狭いため、ピン4の挿入部が狭くなり、したがって、ピン4も短小のもので足り、材料が節減できる。

〈3〉 断面U字型の製品に比べ、曲げに対する強度が大きい。

〈4〉 垂直部の幅が狭いため、コンクリートの回り込みが容易になる。

そして、本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「一定の長尺物」は、一義的解釈が困難であるが、先願考案の「中間バー」(中間接続金具)も通常の需要の大半を満たすことができる一定の長さの物を含み得るという点でこれと実質的に同一であることは、原告らが本件仮処分申請の審尋手続の中で当初から一貫して主張していたところである。

したがって、以上の諸事実に照らせば、被告らとしては、本件仮処分申請に際し、通常の場合にも増して、被保全権利である本件考案の実用新案登録に無効原因がないかどうか、本件Tバーが本件考案の技術的範囲に属するかどうかについて慎重に調査研究すべき注意義務があったにもかかわらず、被告らはこれを尽くさず、漫然と本件仮処分申請に及んだのであるから、被告らにはその点で過失があったというべきであり、原告らに対する共同不法行為として損害賠償義務を免れない。

(二) 仮に本件仮処分申請の時点で被告らに過失がなかったとしても、原告らが仮処分異議の申立をした昭和六三年一一月一一日の時点ないしは原告松田工業の申し立てた本件考案の実用新案登録の無効審判請求書の副本が被告亀井に送達された同月二二日の時点以後、本件仮処分申請を維持したことに過失があったというべきである。

すなわち、被告亀井は、昭和五八年以降、原告らを債務者として、大阪地方裁判所に対し、原告らが製造販売していた種々の建設用資材に関して多数の仮処分を申請しており、仮処分決定が発令されたものもあったが、それらに対しては原告らは異議の申立はしなかった。それは、原告らにおいて、その時点で既に新製品を開発し、仮処分の対象製品の製造販売を中止していたなどの理由から、それ以上敢えて争う実益に乏しかったからである。また、それら仮処分申請の中には、早期に和解で決着したり、被告亀井の申請取下により終了したものもあった。要するに、原告らとしては、争うべきものは争い、その必要性の乏しいものについては早期に被告らと和解するなどしてきたものである。しかし、本件仮処分申請の対象製品である本件Tバーは、従来の製品とは異なり、原告らの製品の中でも主力製品であり、企業利益の根幹をなす製品であった。だからこそ、原告らは、原告松田工業において本件考案の実用新案登録の無効審判を請求するとともに、本件仮処分決定に対しては、被告亀井が申立てた一連の仮処分申請事件としては初めて、異議の申立をして、本件考案の実用新案登録の無効を主張して徹底的に争う姿勢を示したのである。したがって、被告らとしては、原告らの異議申立後も本件仮処分申請を継続するについては、従前の場合にも増して慎重に本件考案の実用新案登録の無効原因の有無及び本件実用新案権侵害の成否を調査研究すべき注意義務があった。ところが、被告らは、そうした調査研究を怠り、しかも、原告らが提出した弁理士森脇康博作成の昭和六二年九月一〇日付鑑定書の内容を十分に調査研究せず、さらに、原告松田工業が特許庁に対し本件Tバーを含む中間バーが本件考案の技術的範囲に属するか否かの判定を求めた判定請求事件(平成元年判定請求第六〇〇〇八号事件)について、被告ホーシンプロダクトは答弁書すら提出しなかったのであり、そのことは、被告らの側で原告らの主張に真摯に耳を傾け、誠実に対処しようとする姿勢を欠いていたことの何より証左というべきである。

【被告らの主張】

被告らが本件仮処分申請をし、これを維持したことについては、以下のとおり過失がない。

1 本件考案は以下の経緯で実用新案登録を受けたものである。

〈1〉 実用新案登録出願 昭和五二年一二月二日

〈2〉 審査請求 昭和五六年一二月三日

〈3〉 補正書提出 昭和五六年一二月三日

〈4〉 拒絶理由通知(先願考案と同一であるから、実用新案法七条一項により実用新案登録を受けることができない。)

昭和五九年五月二二日

〈5〉 補正書提出 昭和五九年七月四日

〈6〉 意見書提出 昭和五九年七月四日

〈7〉 出願公告の決定 昭和五九年九月一一日

〈8〉 補正指令 昭和五九年一一月二〇日

〈9〉 補正書提出 昭和五九年一二月一四日

〈10〉 公告戻し 昭和六〇年七月五日

〈11〉 登録査定 昭和六〇年八月二〇日

〈12〉 実用新案登録 昭和六〇年一〇月九日

ところで、実用新案権についてはその登録に当たり審査官による厳格な審査及び出願公告に対する異議申立の制度が設けられており、一旦特許庁における審査を経て登録を受けだ実用新案権は確固たる地位を有し、容易な理由では無効とはならない。殊に、本件考案の実用新案登録については、右のとおり、出願審査の段階で拒絶理由通知が発せられ、三回も補正書が提出され、そのうち一回は審査官の補正指令に応じたものであり、しかも、本件明細書に参考文献として先願公報が挙げられていることからも明らかなように、審査に際して先願考案が十分考慮され、約八年もの長きにわたる慎重審理の結果、登録が認められたものである。

その後、本件無効審決により、本件考案は先願考案と同一であるとの理由により実用新案登録が無効とされた。しかし、本件考案が先願考案と同一であるか否かは一見して明らかというものではなく、出願前の公知事実及び周知の事実に基づいて当業者が極めて容易に考案できたものであるか否かと同様に、非常に微妙な技術的価値評価を伴い、客観的に明白で一義的な基準によって判断され得るものではない。現に、本件考案も前記のような複雑な経緯で実用新案登録を受けたのである。

以上の本件考案の出願から登録に至るまでの経緯に照らせば、被告らにとっては、本件考案が先願考案と相違し、独自の新規性及び進歩性を具備した有効なものであると信じるのは当然であり、一旦先願考案が拒絶理由として引用されながら、再審査の結果先願考案とは異なる考案として実用新案登録を受けた本件考案について、その先願考案と同一であるとしてその登録が無効とされることは全く予測できなかったことであるから、本件無効審決の謄本の送達を受けるまでの間については、本件考案が先願考案と同一であってその実用新案登録が無効であることを知らずに権利を行使したとしても、そのことに過失があったとはいえない。

そもそも、本件考案は、中間接続金具(中間バー)が存在することを前提とし、従来この中間接続金具を長さの異なる多種類製造して現場で選択して使用していたのを、現場において使用される最大長さの物とした「一定の長尺物」に統一して一品種多量生産をし、これを現場で必要な長さに切断して使用することを考案の主要点とするものであるのに対し、先願考案は、中間接続金具(中間バー)というものが存在しなかった時期において、従来中間部分とジョイント部分とが一体となったセパレータの長さの異なるものを種々生産していたのを、中間部分とジョイント部分とを分離して、中間部分を中間接続金具という新しい部材として考案したことに主要点があり、種々の長さの異なる中間接続金具を生産すること以上の思想はないものであって、両考案は同一でないのであるから、先願考案の中間接続金具をもって「一定の長尺物」であると認定した本件無効審決は誤りであると、被告らは今なお確信している。

2 被告らは、本件考案の実用新案登録は無効審判手続においてその無効であることが確定するまでは有効に存在すると確信していたからこそ、東京高等裁判所に対し本件無効審決の取消訴訟を提起したのである。また、被告らは、本件仮処分申請手続において約二年半もの長期の審理を経て本件仮処分決定を得るとともに、仮処分異議訴訟の一審手続においても約一〇か月の審理を経て認可判決を得たのであり、この間、原告らの提出した弁理士森脇康博作成の鑑定書の内容も十分検討して反論したのであるから、被告らが本件仮処分申請の被保全権利である本件実用新案権に基づく差止請求権を有すると信じたとしても、そのことに過失があったとはいえない。そして、被告らは、本件無効審決の謄本の送達を受けた後は積極的な権利行使をしていないし、第三者に対し本件Tバーについて本件実用新案権を侵害する旨警告するなどして原告らの営業を妨害したわけでもない。被告らとしては、本来、本件無効審決の確定を待って対処すべきであったが、本件仮処分決定の認可判決が大阪高等裁判所で取り消された以上、本件仮処分申請を取り下げざるを得なかったのである。したがって、原告らは、本件無効審決の謄本の送達後は、本件仮処分決定の存在にもかかわらず本件Tバーを製造販売することができたのであり、被告ホーシンプロダクトが本件無効審決に対して取消訴訟を提起することは何ら違法ではない。

なお、先願考案については、原告トーセパの前身である訴外東京セパレーター株式会社から、昭和五八年一一月一七日特許庁に対し実用新案登録無効の審判請求がなされ(昭和五八年審判第二三七〇二号)、出願前公然実施、公知公用の主張が出されたが、被告亀井の試験的製作と試用であるとの主張立証が認められ、無効審判請求は棄却されている。

3 また、原告ら主張の判定請求についての判定の結論は、判定請求の対象たるいわゆるイ号製品をわさわざ最も寸法の大きな長さ三〇〇〇mmのNT-三〇〇〇(本件Tバー)に限定した判定請求に対するものとして正しい結論でないことは明らかである。すなわち、本件考案は、製造工程で各種の寸法の中間バーを製造しておき、それらを工事現場に搬入し、その中から適当寸法のものを選んでピンで接合して目的寸法のバーを構成するという従来技術とは異なり、製造工程で一定の長尺物(例えば長さ三〇〇〇mmの物)のみを製造しておき、それのみを工事現場で所要寸法に切断し、ピンで接合して目的寸法の中間バーを構成するものであるからこそ、従来技術よりも製造、保管、搬送等の面でコストを削減できるのであり、この点は単に中間バーの使用方法の問題ではなくして、考案の構成自体の問題である。これに対し、右判定の結論は、イ号製品の範囲を長さが二〇〇mm、三〇〇mm、四〇〇mm、五〇〇mm、七〇〇mm、九〇〇mm、一一〇〇mm、一五〇〇mm、二五〇〇mm、三〇〇〇mm、三二〇〇mm、三五〇〇mmの各種の寸法の物にまで拡大したうえで、本件考案は、製造工程において各種の寸法の物を製造してその中から適当寸法の物を選択して工事現場に搬入するものは除外しており、NT-三〇〇〇(本件Tバー)もそのような製品の一種であるから、本件考案の技術的範囲から除外されるとしている。しかし、これは本件考案と従来技術との差異を全く無視した不当な結論である。被告らは、このような判定請求は考慮に値しないと考えたのであり、被告らがそのように考えたことは、本件考案が実用新案登録を受けるに至った経緯及び仮処分異議訴訟の一審判決の結果からしても当然である。

4 なお、原告らは、これまで常習的に被告ら及び株式会社豊進製作所(被告亀井が代表者であった会社)の製造販売に係る製品と同一又は酷似する製品を製造販売し、カタログも殆ど同一と言ってよいものを使用してきたのであり、その結果、しばしば被告らから侵害差止の仮処分申請を受け、あるいは敗訴的な和解を重ねてきたのであって、本件考案以外のケースではすべて原告らが被告らの権利を侵害し続けてきたという事実が指摘されねばならない。

二  争点二(被告らが原告らに対し賠償すべき損害の額)について

【原告らの主張】

1 原告トーセパの損害 一億二七六〇万円

(一) 本件Tバーを販売できなかったことによる逸失利益 四〇六〇万円 原告トーセパは、本件仮処分決定の日の前月である昭和六三年九月まで、原告松田工業の製造に係る本件Tバーを同原告から仕入れ、これを東日本地区の販売代理店である訴外株式会社トーセパ(原告トーセパと同一商号であるが、昭和六〇年一〇月一六日東京都八王子市初沢町一三五三番地に本店を置いて設立された株式会社であり、人的、資本的に同原告とは無関係である。甲第一三号証。)及び西日本地区の販売代理店である株式会社龍に対し販売していた。その販売数量は、同原告作成の甲第九号証及び第一〇号証中の売上入力確認表に基づき昭和六三年八月及び九月の一日ごとの数量を集計すると、別紙一覧表記載のとおりであり、右両社分を合わせて月別に合計すると、昭和六三年八月度が二万四七八〇本、同年九月度が三万一〇四〇本となる。また、右売上入力確認表によれば、原告トーセパは本件Tバーを一本当たりの単価二〇〇円で原告松田工業から仕入れ、これを二七〇円ないし二九〇円で右両社に販売していたから、原告トーセパが右各販売によって得る利益は少なくとも本件Tバー一本当たり七〇円を下ることはない。したがって、被告らの前記第二の【事実関係】四の1ないし3の各不法行為がなければ、同原告は、昭和六三年一〇月一九日(本件仮処分決定の日)から平成三年三月二〇日(仮処分異議訴訟の控訴審判決の日)までの二年五か月間(二九か月間)に、少なめに見積もって一か月二万本の本件Tバーを販売することができ、次の算式のとおり、少なくとも四〇六〇万円を下らない利益を得られたはずであるのに、被告らの右不法行為により、同原告は、右期間本件Tバーを全く販売できなかったため、右の得べかりし利益を喪失した(被告らは、原告らは本件仮処分決定後も本件Tバーの製造販売を継続していたと主張するが、そのような事実はない。)。

七〇円×二万本×二九か月=四〇六〇万円

被告らは、右売上入力確認表の記載によっても、原材料費、製造費(人件費、一般管理費等を含む。)を計算に入れると、原告らが本件Tバー一本当たり七〇円の利益を得ることは不可能である旨主張するが、原告トーセパは、原告松田工業によって製造された本件Tバーを仕入れているのであり、当然材料費、製造経費等の製造原価が含まれたものを買い取る立場であるから、本件Tバー一本当たりの利益を七〇円として損害額を算定することの根拠に不足はない。また、原告らは、本件Tバー以外の製品も販売しているのであるから、損害賠償請求訴訟における損害額の算定方法としては、総合原価計算をして厳密な利益額を算定することまでは要求されていないというべきである。

(二) 関連商品又は付属商品の売上減退による逸失利益 八七〇〇万円

本件Tバーは原告トーセパの主力商品であったため、その製造販売の停止に伴って関連商品又は付属商品の売上も減少した。その結果、同原告は、(一)の損害以外にも八七〇〇万円の得べかりし利益を喪失した。

2 原告松田工業の損害 六六五五万円

(一) 本件Tバーを製造販売できなかったことによる逸失利益 四〇六〇万円

原告松田工業は、本件仮処分決定の日の前月である昭和六三年九月まで、一本当たりの製造原価一二〇円ないし一三〇円で本件Tバーを製造し、これを一本当たりの単価二〇〇円で原告トーセパに販売していたのであるから、原告松田工業は、被告らの前記不法行為により、昭和六三年一〇月一九日(本件仮処分決定の日)から平成三年三月二〇日(仮処分異議訴訟の控訴審判決の日)までの二年五か月間(二九か月間)に、原告トーセパと同額の四〇六〇万円を下らない得べかりし利益を喪失した。

被告らは、原告松田工業は実質的には原告トーセパの販売製品の製造を担当する一部門にすぎず、両者は実質上一体とみるべきであるから、原告松田工業に損害の発生する余地はない旨主張するが、商品を製造販売する企業が分社化を図り、同じ場所に製造会社と販売会社とが別個の法人として存在する形態をとることは、何ら特別のことではない。

(二) その他の損害 二五九五万円

原告松田工業は、本件仮処分決定及びその執行により、本件Tバーの製造販売が不能となり、当時多額の借金をしていた株式会社龍に対し、次の(1)ないし(3)の本件Tバー製造用の金型、機械等を引渡さざるを得なくなり、その結果合計二五九五万円の損害を被った。

(1) 穴開金型一面 一二〇万円

(2) ホーミングロール一六コマ 四七五万円

(3) ホーミング機械 二〇〇〇万円

【被告らの主張】

以下のとおり、原告らの損害の主張は全て失当といわなければならない。

1 原告らは、本件仮処分決定後二九か月間本件Tバーの製造販売ができなかったと主張するが、以下のとおり、原告らは右期間中も本件Tバーの製造販売を継続していたのであるから、原告ら主張の損害は全く生じていない。

原告らは、本件仮処分決定の直後、本件Tバーの製造用の機械が被告らによって差押えられることを懸念して、自己の意思によって親会社である北九州市新門司所在の株式会社龍の敷地内にある同社子会社の山陽商事株式会社の空き倉庫を賃借してそこに右機械を搬入し、毎月家賃一五万円を支払い、原告トーセパの代表者松田忠広及び原告松田工業の代表者松田隆博の兄弟が交替で出向いて本件Tバーの製造に当たり、梱包その他の作業に従事する女性従業員を採用して、全く支障なく本件Tバーの製造を継続していた。

原告らは、このようにして製造した本件Tバーの過半数を原告トーセパから親会社の株式会社龍に売り渡し、株式会社龍は、これを九州・四国・中国の販売店や建設会社に発送していた。残りの製品は、一旦原告トーセパの大東市内の倉庫に搬送し、東日本地区の販売代理店である訴外株式会社トーセパから注文があると、別紙「仮処分後Tバー納品明細書」記載のとおり、同社の販売先に向けて株式会社エスラインギフ、飛騨運輸株式会社、佐川急便等の運送会社を使用して右倉庫から直接出荷していた(この事実は、乙第二一号証の2ないし21及び第二五号証の1ないし10の納品書並びに乙第二六号証の1ないし10の運送会社の送り状によって明らかである。)。

2 甲第九号証及び第一〇号証中の売上入力確認表の記載によっても、原材料費、製造費(人件費、一般管理費等を含む。)を計算に入れると、原告らが本件Tバー一本当たり七〇円の利益を得ることは不可能であり、実際には原告らの利益は右金額を大幅に下回ることは明らかである。

すなわち、甲第九号証及び第一〇号証によると、本件Tバーの材料費は一キログラム当たり一四〇円であり、本件Tバー一本の重量は一・一キログラムであるから、本件Tバーの製造には材料費だけでも一本当たり一五四円かかることになる。

また、原告らは、原告トーセパは本件Tバーを原告松田工業から仕入れ、これを訴外株式会社トーセパ及び株式会社龍に対し販売していた旨主張するが、甲第九号証及び第一〇号証に最終需要者である取引業者の名前が記載されていることからも明らかなように、本件Tバーは訴外株式会社トーセパ及び株式会社龍に搬送するのではなく、両社の取引業者に原告トーセパの大東市内の倉庫から直接搬送していたのであるから、梱包費用、運送費用及び保険料等も必要である。

3 甲第九号証及び第一〇号証中の仕入入力確認表によると、原告トーセパが原告松田工業から仕入れていたのは本件Tバーとは関係のない「ミミ」「アシバ」「ネジジョイント」「ピン」だけであり、本件Tバーについてはただの一本も仕入れの記載はなく、むしろ、本件Tバーの素材である「ハイテン一・二×四一」は、原告トーセパが親会社の株式会社龍から仕入れているのである。仮に原告トーセパが右素材を原告松田工業に再販していたものとすれば、その場合は、甲第九号証及び第一〇号証中の売上入力確認表にも得意先別商品売上日報にもその販売の事実が記録されているはずであるが、その記録は全く存在しない。

原告松田工業は実質的には原告トーセパの販売製品の製造を担当する一部門にすぎず、両者は実賞上一体とみるべきであるから、原告松田工業に本件仮処分決定及びその執行によって損害の発生する余地はない。原告トーセパにおいて原告松田工業からの仕入れの記録が存在しないことが、はしなくもそのことを立証しているのである。

4 原告らが本件Tバー製造用の金型、機械等を株式会社龍に引渡したのは、単に本件仮処分決定による追及を免れ、秘かに本件Tバーの製造販売をするための仮装行為にすぎない。

5 仮に本件仮処分決定及びその執行によって原告らに何らかの損害が発生しているとしても、甲第九号証及び第一〇号証中の売上入力確認表等は、年間で公共工事の新規発注が最も多く需要が最盛期の八月及び九月の資料にすぎないから、その数値を単純に積算して本件Tバーの一か月当たりの販売数量を算出するのは相当でない。需要が少ない時期を含む昭和六三年九月から過去一年間に遡った期間の販売数量の総計を一二か月で除して一か月当たりの販売数量を算出すべきである。

第四  争点に対する判断

一  争点一(被告らの第二の【事実関係】四の1ないし3の各行為は原告らに対する不法行為を構成するか。)について

1  被告亀井の本件仮処分申請及び執行について

(一) 前示のとおり、本件仮処分決定は、異議訴訟の控訴審において本件無効審決がなされたことを理由に被保全権利の疎明が十分でないとして取り消され、同判決が確定し、その後本件無効審決が審決取消訴訟における請求棄却判決の確定により確定した結果、本件実用新案権は実用新案法四一条、特許法一二五条により初めから存在しなかったものとみなされたのであるから、被告亀井は被保全権利が存在しないにもかかわらず本件仮処分申請をし、本件仮処分決定を得てその執行をしたことになるのであって、同被告のした右各行為は違法であるといわなければならない。

(二) そこで、被告亀井の責任原因について判断する。

まず、原告らは、被告亀井は故意過失の有無を問わず、本件仮処分決定(自体)及びその執行と相当因果関係に立つ原告らの損害を賠償すべき義務がある旨主張する。しかしながら、保全処分制度は、権利を保全する目的から、被保全権利及び保全の必要性について疎明があれば適法に保全処分命令を発することを認めているのであるから、最終的に被保全権利が存在しないとされた場合には、申請時において過失なくして保全処分を適法に利用したときでも不法行為責任を免れないというのでは、保全処分がその機能を全うできないことになり、相当とは解されない。したがって、原告らの右主張は採用できない。

(三) しかし、仮処分命令が、その被保全権利が存在しないために当初から不当であるとして取り消された場合において、右命令を得てこれを執行した仮処分申請人が右の点について故意又は過失のあったときは、右申請人は民法七〇九条により、被申請人がその執行によって受けた損害を賠償すべき義務があるものというべく、一般に、仮処分命令が異議又は上訴手続において取り消され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のない限り、右申請人において過失があったものと推定するのが相当である。ただ、右申請人において、その挙に出るについて相当な事由があった場合には、右取消の一事によって同人に当然過失があったということはできない(最三小判昭四三・一二・二四・民集二二巻一三号三四二八頁参照)。

そこで、被告亀井が本件仮処分申請をして本件仮処分決定を得、その執行をするについて相当な事由があったか否かについて検討する。

被告らは、この点について、本件考案の出願から登録に至るまでの経緯に照らせば、被告らにとっては、本件考案が先願考案と相違し、独自の新規性及び進歩性を具備した有効なものであると信じるのは当然であり、一旦先願考案が拒絶理由として引用されながら、再審査の結果先願考案とは異なる考案として実用新案登録を受けた本件考案について、その先願考案と同一であるとしてその登録が無効とされることは全く予測できなかったことであるから、本件無効審決の謄本の送達を受けるまでの間については、本件考案が先願考案と同一であってその実用新案登録が無効であることを知らずに権利を行使したとしても、そのことに過失があったとはいえない旨主張する。乙第一号証ないし第四号証によれば、本件考案の出願から登録に至るまでの経緯は第三の一の【被告らの主張】1冒頭部分記載のとおりであることが認められ、これによれば、本件考案は、審査官による長期間にわたる審査の結果、一旦は先願考案と同一であるとする拒絶理由の通知を受けながらこれが解消されたものとして審査官によって登録査定がされたものであることが認められるところ、一般に、二つの考案が実質的に同一であるか否かの判断には微妙な技術的価値評価を要するものであり、客観的に明白で一義的な基準は定立し難いものといわざるを得ない。

しかしながら、いかに長期間にわたる審査がなされ、いわゆる引用例による拒絶理由が解消されたものとして審査官によって登録査定がされた場合であっても、その後の無効審判請求において、拒絶理由で引用されたと同じ引用例によってその実用新案登録が無効とされる可能性のあることは制度上明らかであるから、本件考案について、被告主張のように拒絶理由で引用されたその先願考案と同一であるとしてその登録が無効とされることは全く予測できなかったということはできず、むしろ、右のとおり二つの考案が実質的に同一であるか否かの判断には微妙な技術的価値評価を要するものであり、客観的に明白で一義的な基準は定立し難いことに照らせば、被告亀井としては、後の無効審判において、当業者である無効審判請求人による主張立証が尽くされ、三人の審判官の合議体によって審理された結果、審査官の判断とは異なって、本件考案は先願考案と実質的に同一であると判断される危険性を孕んでいることを承知しておくべきであり、かかる権利に基づき本案訴訟で勝訴判決を得た場合と同じ内容の満足が得られる差止の仮処分を利用した以上、その登録が万一無効とされた場合の損害賠償責任は覚悟しておくべきであるとさえいうことができるのである。要するに、前記のような経緯で本件考案が実用新案登録を受けたからといって、そのことによって、被告亀井が結果として被保全権利なくして本件仮処分申請をして本件仮処分を得、その執行をしたことに相当の理由があるとすることはできない(一般に、ある実用新案登録出願について、拒絶理由通知を受け、手続補正を重ね、出願公告に対して異議申立を受けた末登録査定を受け、あるいは拒絶査定を受けてこれに対する不服の審判請求における審決によって登録されたものの、後の無効審判請求において、右拒絶理由通知に引用されたと同じ引用例によって無効とされた場合に、被告らの論法に従えば、同じ引用例によって無効とされることは、本件の場合にも増して予測できないということになろうが、右のような実用新案権は、無効とされる危険性を大いに孕んでいるともいうことができる。逆に、実用新案登録出願について、拒絶理由通知も受けず、出願公告に対する異議申立もなく、極めて順調に短期間の審査で登録がされた場合には、被告らの論法に従えば、おそらく後の無効審判請求によって無効とされることは予測可能であるということになるのであろうが、実用新案権者としては、拒絶理由通知も異議申立もなく、極めて順調に短期間の審査で登録されたのは誰からも文句のつけようのない完壁な出願であったからに外ならないから、後に登録が無効とされることなど全く予測できなかった、という言い方も可能である。もし、この後者の場合も、被告らが実用新案権者の過失を否定するというのであれば、実用新案権者が実用新案権を被保全権利として仮処分申請をし、仮処分決定を得て執行した後に、無効審判によって登録が無効とされても、およそ実用新案権者に過失があるとされる場合は存在しないということになり、不当というべきである。)。

(四) のみならず、具体的に本件考案と先願考案の同一性を検討しても、以下のとおり、被告亀井が本件仮処分申請をして本件仮処分決定を得、その執行をしたことにつき相当の事由があったとは到底認められない。

被告らは、本件考案は、中間接続金具(中間バー)が存在することを前提とし、従来この中間接続金具を長さの異なる多種類製造して現場で選択して使用していたのを、現場において使用される最大長さの物とした「一定の長尺物」に統一して一品種多量生産をし、これを現場で必要な長さに切断して使用することを考案の主要点とするものであるのに対し、先願考案は、中間接続金具(中間バー)というものが存在しなかった時期において、従来中間部分とジョイント部分とが一体となったセパレータの長さの異なるものを種々生産していたのを、中間部分とジョイント部分とを分離して、中間部分を中間接続金具という新しい部材として考案したことに主要点があり、種々の長さの異なる中間接続金具を生産すること以上の思想はないものであって、両考案は同一でないのであるから、先願考案の中間接続金具をもって「一定の長尺物」であると認定した本件無効審決は誤りであると、被告らは今なお確信している旨主張する(被告らは、本件無効審決が、本件考案の構成要件と先願考案の構成要件とは実質的に同一であるとしたその外の点については、特に強くは異議を唱えないものと認められる。)。

しかして、本件考案の構成要件Cにいう「中間バー2は、一定の長尺物で」の意味は、当業者にとっても一義的に理解することはできないと認められるところ、本件明細書の考案の詳細な説明には、本件考案の技術的課題(目的)に関して、「本考案は、一端に隣接コンクリート型枠の接当端面間に挿入して離脱可能に係止固定される係止部を有し、かつ、他端に長尺バー接続部を有する二つのジョイント台と、これら二つのジョイント台の接続部にピンを介してその長手方向両端部を接合可能な中間バーとからなるジョイント式コンクリート型枠用セパレータに関する。かかるセパレータは、旧来の全長が断面円形のロッド状のものに比して、型枠のコンクリート受止面にロッド端部挿入用の貫通孔を設けなくても良い、セパレータの型枠に対する連結と隣接型枠同志の連結とを同時に行なえる等の利点の他、ジョイント台としては、一品種多量生産が可能であり、製品コストを低減できるという利点がある。しかしながら、作業現場毎によって使用すべきセパレータの長さが相違したり、或いは同一作業現場であっても上部巾と下部巾の異なる断面台形状の山留めコンクリート壁を作成する際に種々長さのセパレータを用意しなければならない場合に対処すべく、前記中間バーをして、長さの互いに異なる多種類のものを製造し、かつこれを現場に搬入して、いちいち、適当な長さのものを選択使用したり、或いは中間バーを二つ及至三つに分割して製造し、それらのピン接続箇所をいちいち選定することにより、セパレータ長さを調整すべくなしていた。従って、これら何れの場合も、中間バーについて一品種多量生産によるコストダウンが期待できず、又、その取扱い、管理および前記選択、選定が極めて煩わしく、かつセパレータ長さの微調整が困難で、調整範囲に限界があった。本考案は、かかる実情に鑑みて、中間バーにつき、殊にその製造段階において一品種多量生産を可能にしてコストダウンを図るとともにその取扱い、管理も容易にでき、かつセパレータ長さの調整が容易に、しかもその調整範囲を微小な間隔できる(「間隔でできる」の誤記と認められる。裁判所注記)ジョイント式コンクリート型枠用セパレータを提供せんとするものである。」(本件公報1欄24行~3欄4行)との記載があり、本件考案そのものの構成について、「中間バーは、製造段階において、種々の場合において必要となる種々長さのうち最大長さに相当する一定長さの長尺物とし、かつ、その長手方向に全長に亘って、前記ジョイント台に形成したピン接合孔のピッチと異なるピッチで多数のピン接合孔を形成して、一品種多量生産しておき、かつこの一定長の長尺中間バーを一括して作業現場に搬入し、現場で必要な任意長さに切断したのち二つのジョイント台に接続してセパレータを構成する訳である。」(同3欄16行~25行)との記載があり、作用効果について、「ジョイント台は勿論、中間バーも一品種多量生産で賄なうことができるため、大巾なコストダウンが図れるとともに、中間バーのすべてが一定長であるため取扱い、管理が非常に容易であり、しかも、適用箇所に見合った長さに任意に切断するため、多数種の中から最適のものを一つだけ選択するといった煩わしさも解消できる。更に、ジョイント台と中間バーの双方に互いにピッチの相異なるピン接合孔を設けてあって、これら両孔の位置選択により、セパレータ長さの微調整が行なえる。言わば、中間バー切断による粗調整と互いにピッチの異なる孔位置選択による微調整どの二段調整を、適用箇所毎に実施するものであるから、調整範囲を大きく拡大し得、所望の非常に正確なセパレータ長さ調整が可能となる。」(同3欄26行~41行)との記載があり、これらの記載を総合すると、本件考案の構成要件Cにいう「中間バー2は、一定の長尺物で」とは、中間バー2は、種々の場合において必要となる種々の長さのうち最大長さに相当する一定の長さであって、そのままで又は必要な任意の長さに切断して用いることにより、通常の需要の大半を満たすことができる長さのものであることを意味するものと解される。

これに対し、先願考案は、前記第二の【事実関係】二2のaないしdを構成要件とするものであり、その明細書には、先願考案の作用効果について、「前記複数個の接続部のうち、適当なものを選択して、この中間接続金具(本件考案の「中間バー」に相当する。裁判所注記。)の両端部を一対のジョイント台に接続することにより、種々長さのセパレータを構成することができ、対向型枠の離間距離変化に、適切かつ簡単に対処することができる。又、補強凹部を金具長手方向全長に亙って形成したものでは、この中間接続金具を製造するに当って、非常に長大なものを補強凹部を有する状態で生産して、これを必要長さに切ることによって多数の中間接続金具が一挙に作成できるため、製造作業能率の向上およびコストダウンを図ることができる。……更に、副次効果として、ジョイント台として一品種多量生産することが可能となり、ジョイント台の作成を容易、安価に行なわせ得る利点もある。」(先願公報3欄7行~26行)との記載があり、先願考案の実施態様について、「前記補強凹部の対向両側壁部には前記ジョイント台2、2を接続するための一対の接続部3'、3'が、各組が同一位相個所に位置する状態で、長手方向の全長範囲において長手方向に沿って適当等間隔おきに、ピン挿通孔として、多数組穿形成されている。……各ジョイント台2の折曲部分の対向両側壁部には、一対の被接続部2'、2'が、各組が同一位相個所に位置する状態で、長手方向に沿って、前記接続部3'、3'の長手方向隣接間隔よりも小さい適当等間隔おきに、ピン挿通孔として多数組穿設形成されている。」(先願公報3欄40行~4欄12行)との記載があり、その実施態様の作用効果について、「接続部3'、3'、被接続部2'、2'が長手方向において多数設けられていることにより、大きな範囲にわたっての粗調整が可能であるとともに、長手方向隣接間隔が両者で互いに異なっているために、微調整も可能となっている。」(同4欄21行~26行)との記載があり、これらの記載によれば、先願考案の中間接続金具は、非常に長大なものを生産して、これを切断することによって多数の中間接続金具を一挙に作成するとされていることから、種々の場合において必要となる種々の長さのうち最大長さに相当する一定の長さのものを含むことは明らかであり、そして、この一定の長さのものは、当然、そのままの長さで又は必要な任意の長さに切断して用いることは可能であり、これにより、通常の需要の大半を満たすことができるから、先願考案の中間接続金具も、本件考案にいう「一定の長尺物」を含むものであることは明らかである。したがって、本件考案と先願考案とは、「一定の長尺物」である点において実質的に同一であり、そのことは各考案の技術内容自体から明らかであったといわなければならない。

先願考案は被告亀井自身の出願に係るものであり、同被告はその技術内容を熟知していたものと認められ、そして、本件考案は、出願審査の段階で一旦は先願考案との同一性を理由に拒絶理由通知を受けていたのであり、本件仮処分申請の審尋手続において原告らが本件考案の実用新案登録に無効原因があるとして徹底的に争う姿勢を示していたのである(弁論の全趣旨)から、被告亀井としては、本件考案の実用新案登録が無効審判請求により結局は無効とされる蓋然性の高いことを容易に知り得たものといわなければならない(原告松田工業のした無効審判の請求について、その請求書副本が被告亀井に送達されたのは、被告亀井が本件仮処分決定を得てその執行をした後の昭和六三年一一月二二日頃のことであると認められるが〔乙第二三号証の1ないし3〕、原告らのように実用新案権に基づく仮処分申請の相手方とされた者が、その実用新案登録に無効原因のあることを主張して争っている場合は、特許庁に対しその無効審判を請求することは常套手段であるから、現実に原告松田工業が本件考案の実用新案登録について無効審判請求をしていることを被告亀井が知らなかったとしても、原告らが無効審判請求に及ぶであろうことは、当然予測できたところである。)。

したがって、被告亀井としては、その権利の行使については特に慎重であることが要求されたのであって、被告ら主張のすべての点を考慮しても、被告亀井が本件仮処分申請をして本件仮処分決定を得、その執行をするについて相当な事由があったと認めることはできない。

被告らは、本件仮処分申請手続において約二年半もの長期の審理を経て本件仮処分決定を得るとともに、仮処分異議訴訟の一審手続においても約一〇か月の審理を経て認可判決を得たことをもって、被告らの無過失の主張の根拠とするようであるが、仮処分申請手続においては、実用新案登録の有効、無効は正面から審理の対象となるものではなく、その審理には自ずから限界があり、現実にも本件仮処分申請手続及び異議訴訟において本件考案と先願考案との同一性を理由とする無効の主張はなされていなかった(乙第六号証、弁論の全趣旨)から、本件仮処分決定及び一審の認可判決の存在は、右判断を左右するものではない。

(五) 以上によれば、被告亀井の本件仮処分申請及び執行は、原告らに対する不法行為を構成するものといわざるを得ないから、同被告は、これによって原告らが被った損害を賠償すべき義務を負うものといわなければならない。

もっとも、被告亀井は、前示のとおり平成元年一〇月二日被告ホーシンプロダクトに本件実用新案権を譲渡し、平成二年二月二六日に同被告への移転登録がなされたものであるが、同被告が同年一二月に本件仮処分決定に対する異議訴訟の控訴審に承継参加するまで本件仮処分申請を維持し、その後も、同被告に対して本件仮処分申請を取り下げるよう慫慂したとの事実については主張立証がないから、右異議訴訟の控訴審判決までの全期間の損害を賠償すべきものというべきである。被告らは、本件無効審決の謄本の送達を受けた後は積極的な権利行使をしていないし、第三者に対し本件Tバーについて本件実用新案権を侵害する旨警告するなどして原告らの営業を妨害したわけでもないとか、原告らは本件無効審決の謄本の送達後は、本件仮処分決定の存在にもかかわらず本件Tバーを製造販売することができたと主張し、少なくとも右謄本送達後の期間については被告亀井は不法行為責任を負わない旨主張するかのようであるが、本件仮処分決定が異議訴訟の控訴審判決によって取り消されるまでは原告らは本件仮処分決定の効力により本件Tバーを製造販売することができなかったのであるから、右主張は到底採用することができない。

(六) 原告らは、被告亀井の本件仮処分申請及び執行が被告伸光企業及び被告ホーシンプロダクトとの間の共謀に基づくものである旨主張するが、右共謀の事実を認めるに足りる証拠はないから、本件仮処分申請及び執行を理由に被告伸光企業及び被告ホーシンプロダクトに対し損害賠償を求める請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。

ただし、被告ホーシンプロダクトは、前記のとおり平成元年一〇月二日被告亀井から本件実用新案権を譲り受け、平成二年二月二六日その旨の移転登録を経由したものであるが、遅くとも本件無効審決の謄本の送達を受けた同年八月二三日には、本件考案の実用新案登録が結局は無効とされる蓋然性が高いことを容易に知り得たというべきであり、そして、同年一二月には本件仮処分決定に対する異議訴訟に参加しているのであるから、遅くとも同時点の直前の同年一一月末日には本件仮処分決定の存在を知ったものと推認され(被告ホーシンプロダクトがこれより前の時点で本件仮処分決定の存在を知ったとの事実は、本件全証拠によるも認められない。)、それにもかかわらず、同被告は、本件仮処分申請を維持したのであるから、同年一二月一日から平成三年三月二〇日までの間については、被告亀井との共同不法行為として、損害賠償責任を負うものといわなければならない。

2  被告らのその余の行為について

(一) 原告らは、被告亀井の本件仮処分申請及び執行の外に、被告亀井の仮処分異議訴訟における応訴、被告伸光企業の本案訴訟の提起、被告ホーシンプロダクトの控訴審における仮処分異議訴訟への承継参加が違法であり、原告らに対する不法行為を構成すると主張するが、そのうち、被告亀井の仮処分異議訴訟における応訴及び被告ホーシンプロダクトの控訴審における仮処分異議訴訟への承継参加は、本件における原告らの損害賠償請求の内容に照らし、前示のとおり本件仮処分申請をして本件仮処分決定を得、その執行をし、本件仮処分申請を維持したことの一環として評価すれば足り、これを独立した不法行為として捉える必要はないというべきである。

(二) そこで、被告伸光企業の本案訴訟の提起について検討するに、訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となるところ(最三小判昭六三・一・二六・民集四二巻一号一頁)、被告伸光企業が本案訴訟を提起した平成元年一二月五日当時、先願考案の存在、ひいて本件考案の実用新案登録が無効とされる蓋然性が高いことを知り又は容易に知り得たとの事実を認めるに足りる証拠はなく、その他、同被告の本案訴訟の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認めるに足りる証拠はないから、同被告に対する損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

二  争点二(被告亀井及び被告ホーシンプロダクトが原告らに対し賠償すべき損害の額)について

1  本件Tバーを販売できなかったことによる逸失利益について

(一) 証拠(甲第九号証、第一〇号証、第一三号証、原告松田工業代表者)に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告松田工業は、本件仮処分決定の日の前月である昭和六三年九月まで、本件Tバーを一本当たりの製造原価一二〇円ないし一三〇円で製造し、これを一本当たりの単価二〇〇円で全量原告トーセパに販売していた。

(2) 原告トーセパは、前同月まで、原告松田工業から一本当たりの単価二〇〇円で仕入れた本件Tバーを一本当たりの販売単価二七〇円ないし二九〇円で東日本地区の販売代理店である訴外株式会社トーセパ及び西日本地区の販売代理店である株式会社龍に販売していた。

(3) 原告トーセパの訴外株式会社トーセパ及び株式会社龍に対する本件Tバーの販売数量は、同原告作成の前掲甲第九号証及び第一〇号証中の売上入力確認表に基づき、昭和六三年八月及び九月の一日ごとの数量を集計すると、別紙一覧表記載のとおりであり、訴外株式会社トーセパ及び株式会社龍の両社分を合せて月別に合計すると、昭和六三年八月度が二万四七八〇本、同年九月度が三万一〇四〇本となる。

(4) 原告らは、被告亀井から本件仮処分決定(自体)及びその執行を受けたため、昭和六三年一〇月一九日(本件仮処分決定の日)から平成三年三月二〇日(仮処分異議訴訟の控訴審判決の日)までの二年五か月間(二九か月間)、本件Tバーの製造販売をすることができなかった。

右認定に反する被告らの主張(第三の二【被告らの主張】3)は採用することができず、右認定事実によれば、原告らは、本件仮処分決定の日の前月である昭和六三年九月まで、それぞれ、少なくとも一月当たり二万本の本件Tバーを製造販売し、少なくとも一本当たり七〇円の利益を得ていたものと認められる。

したがって、原告らは、本件仮処分決定(自体)及びその執行を受けていなければ、昭和六三年一〇月一九日(本件仮処分決定の日)から平成三年三月二〇日(仮処分異議訴訟の控訴審判決の日)までの間、それぞれ、少なくとも一月当たり二万本の本件Tバーを製造販売し、少なくとも一本当たり七〇円の利益を得られたものと認められる。

(二) 被告らは、原告らは、本件仮処分決定の直後、本件Tバーの製造用の機械が被告らによって差押えられることを懸念して、自己の意思によって親会社である北九州市新門司所在の株式会社龍の敷地内にある同社子会社の山陽商事株式会社の空き倉庫を賃借してそこに右機械を搬入し、毎月家賃一五万円を支払い、原告トーセパの代表者松田忠広及び原告松田工業の代表者松田隆博の兄弟が交替で出向いて本件Tバーの製造に当たり、梱包その他の作業に従事する女性従業員を採用して、全く支障なく本件Tバーの製造を継続していたのであって、原告らはこのようにして製造した本件Tバーの過半数を原告トーセパから親会社の株式会社龍に売り渡し、株式会社龍はこれを九州・四国・中国の販売店や建設会社に発送していたのであり、残りの製品は、一旦原告トーセパの大東市内の倉庫に搬送し、東日本地区の販売代理店である訴外株式会社トーセパから注文があると、別紙「仮処分後Tバー納品明細書」記載のとおり、同社の販売先に向けて株式会社エスラインギフ、飛騨運輸株式会社、佐川急便等の運送会社を使用して右倉庫から直接出荷していた(この事実は、乙第二一号証の2ないし21及び第二五号証の1ないし10の納品書並びに乙第二六号証の1ないし10の運送会社の送り状によって明らかである。)と主張するが、本件全証拠によるも右事実を認めるに足りない(右乙第二一号証の2ないし21及び第二五号証の1ないし10〔「株式会社トーセパ」名義の株式会社アキラ商会宛ての納品書〕には訴外株式会社トーセパの住所・電話番号・FAX番号とともに原告トーセパの住所・電話番号・FAX番号が併記されており、また、乙第二六号証の1ないし10〔運送会社の株式会社アキラ商会宛の送り状〕の荷送人欄には原告トーセパの肩書住所、電話番号及び「株式会社トーセパ」の社名を刻した社判が押捺されている。しかし、右納品書は訴外株式会社トーセパの作成に係るものであり、同社は前認定のとおり従来から原告トーセパとはその東日本地区の販売代理店であるという関係にあったこと、本件仮処分決定及びその執行により原告らからの本件Tバーの供給の途を絶たれた訴外株式会社トーセパは、その後、同種製品を製造販売していた尼崎市所在のコーキ工業株式会社から本件Tバーと同種のTバー製品を調達し、これを販売店やユーザーに納入していたこと〔甲第一二号証、原告松田工業代表者〕、原告トーセパの肩書住所地には、本件仮処分申請前から訴外株式会社トーセパの製品配送センターがあること〔甲第六号証、弁論の全趣旨〕に照らすと、右乙号各証のみによってら直ちに被告らの主張事実を認めることはできない。)。

(三) ところで、前記認定の本件Tバーの製造販売による一本当たり七〇円の利益は、販売価格から製造原価(原告松田工業の場合)又は仕入原価(原告トーセパの場合)を差し引いたいわゆる粗利益を指すことは原告らの主張自体から明らかであるところ、原告らが昭和六三年一〇月一九日から平成三年三月二〇日までの二年五か月間(二九か月間)本件Tバーを製造販売できていた場合でも、右粗利益から更に販売費、一般管理費、梱包運送費、宣伝広告費等の必要経費を控除した残余の額を純利益として取得することができたにすぎないから、本件仮処分決定(自体)及びその執行により原告らが喪失した得べかりし利益として賠償を求めることができるのも、右純利益にとどまるものというべきである(損害額に関する被告らの主張は、この限度で理由があることになる。)。

原告らは、原告トーセパは原告松田工業によって製造された本件Tバーを仕入れているのであり、当然材料費、製造経費等の製造原価が含まれたものを買い取る立場であるから、本件Tバー一本当たりの利益を七〇円として損害額を算定することの根拠に不足はないとか、原告らは本件Tバー以外の製品も販売しているのであるから、損害賠償請求訴訟における損害額の算定方法としては、総合原価計算をして厳密な利益額を算定することまでは要求されていないというべきであると主張する。しかし、原告らの本訴請求は、一般の不法行為法(民法七〇九条)に基づき、侵害行為により製品を製造販売できなかったことによる損害賠償を請求するものであるところ、不法行為は被害者が現実に被った損害を賠償せしめる制度であるから、同条に基づき被害者が損害賠償として填補を受け得る額は、本来売上に要したすべての必要経費相当額を差し引いた純利益額に外ならないと解すべきである。これと異なる前提に立つ原告らの右主張は採用することができない。

しかして、右必要経費については、他によるべき資料もないので、市場には本件Tバー以外にもコーキ工業株式会社製のTバー等競合商品が存在することなど、本件に顕れた一切の諸事情を斟酌して粗利益額の五〇%と認めるのが相当である。

結局、本件Tバーを製造販売できなかったことにより原告らが被った逸失利益の損害は、原告らそれぞれについて、以下の算式のとおり二〇三〇万円となる。

七〇円×〇・五×二万本×二九か月=二〇三〇万円

2  原告ら主張のその余の損害について

原告らは、本件Tバーは原告トーセパの主力商品であったため、その製造販売の停止に伴って関連商品又は付属商品の売上も減少した結果、同原告は右1の損害以外にも八七〇〇万円の得べかりし利益を喪失し、また、原告松田工業は本件仮処分決定及びその執行により本件Tバーの製造販売が不能となり、当時多額の借金をしていた株式会社龍に対し、本件Tバー製造用の金型、機械等を引渡さざるを得なくなり、その結果合計二五九五万円の損害を被った旨主張するが、本件仮処分決定及びその執行と相当因果関係にある損害とは認められない。

3  被告亀井及び被告ホーシンプロダクトがそれぞれ原告らに賠償すべき額について

以上によれば、被告亀井は、原告らそれぞれに対し、昭和六三年一〇月一九日から平成三年三月二〇日までの間の全損害である二〇三〇万円及びこれに対する平成三年三月二一日(仮処分処分異議訴訟の控訴審判決の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があることになる。

また、被告ホーシンプロダクトは、前記一1(六)に説示のとおり平成二年一二月一日から平成三年三月二〇日までの間について、被告亀井との共同不法行為として損害賠償責任を負うものであるから、右二〇三〇万円のうち三か月(平成二年一二月から平成三年二月まで)と三一分の二〇か月(平成三年三月)分である二五五万一六一三円(一円未満四捨五入)及び前同様の遅延損害金を被告亀井と連帯して支払うべき義務があることになる。

第五  結論

よって、原告らの本訴請求は、それぞれ、被告亀井に対しては二〇三〇万円(二五五万一六一三円の範囲では被告ホーシンプロダクトと連帯)及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で認容し、その余を棄却し、被告ホーシンプロダクトに対しては二五五万一六一三円(被告亀井と連帯)及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で認容し、その余を棄却し、被告伸光企業に対する請求を棄却することとする。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 本吉弘行 裁判官小澤一郎は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

イ号図面説明書

1. 図面の説明

第1図は中間部を切除省略した斜視図、第2図は中間部を切除省略した正面図、第3図は第2図におけるⅢ-Ⅲ線切断端面図、参考第1図は使用状態を示す概要図、参考第2図は使用方法を示す分解図である。

2. 物品の説明

図面に示した物品は、使用状態を示す概要図及び使用方法を示す分解図として参考第1図及び参考第2図に示したように、一端に隣接コンクリート型枠3、3の接当端面間に挿入して離脱可能に係止固定される係止部1aを有し、かつ、他端に長尺バー接続部1cを有する二つのジヨイント台1、1と、これら二つのジヨイン台1、1の接続部1c、1cにピン4、4を介してその長手方向両端部を接合可能とした中間バー2とからなるジヨイン式コンクリート型枠用セパレータの中間バーである。

3. 構造の説明

第1図乃至第3図に示すように、

〈1〉 前記両ジヨイント台1、1は各接続部1c、1cの夫々にその長手方向に沿って適宜ピツチ(12mmピッチに形成されている)で複数のピン接合孔1d、1d……を設けたものであり、

〈2〉 前記中間バー2は第2図に示したようにその長さが3000mmの一定の長尺物で、かつその長手方向に全長に亘って、前記両ジヨイント台1、1に形成したピン接合孔1d、1d…のピッチと異なるピッチ(15mmピッチに形成されている)で多数のピン接合孔2a……が形成され、

〈3〉 前記ジヨイント台1、1のピン接合孔1d、1dと必要寸法に切断した中間バー2のピン接合孔2aとの選定した孔1d、2aにピン4、4を挿入すべく構成してある。

イ号図面

〈省略〉

参考第1図

〈省略〉

参考第2図

〈省略〉

公報(1)

〈10〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭60-9334

〈31〉Int.Cl.4E 04 G 17/12 識別記号 庁内整理番号 7709-2E 〈24〉〈44〉公告 昭和60年(1985)4月3日

〈34〉考案の名称 ジヨイント式コンクリート型枠用セパレータ

〈21〉実願 昭52 162642 〈65〉公開 昭54-88157

〈22〉出願 昭52(1977)12月2日 〈43〉昭54(1979)6月22日

〈72〉考案者 亀井進 大阪市東淀川区山口町208の2

〈71〉出願人 亀井嘉征 大分市大字小池原29番2号

〈34〉代理人 弁理士 佐当弥太郎 外2名

審査官 佐藤嘉明

〈36〉参考文献 実公昭55-44117(JP、Y2)

〈57〉実用新案登録請求の範囲

一端に隣接コンクリート型粋3、3の接当端面間に挿入して離脱可能に係止固定される係止部1aを有し、かつ、他端に長尺バース接続部1cを有する二つのジヨイント台1、1と、これら二つのジヨイント台1、1の接続部1c、1cにピン4、4を介してその長手方向両端部を接合可能な中間バー2とからなるジヨイント式コンクリート型枠用セパレータであつて、前記両ジヨイント台1、1の各接続部1c、1cの夫々にその長手方向に沿つて適宜ピツチで複数のピシ接合孔1、d、1d……を設けるとともに、前記中間バー2は、一定の長尺物で、かつその長手方向に全長に亘つて、前記両ジヨイント台1、1に形成したピン接合孔1d、1d……のピツチと異なるピツチで多数のピン接合孔2a……を形成し、前記ジヨイント台1、1のピン接合孔1d、1dと必要寸法に切断した中間バー2のピン接合孔2aとの選定した孔1d、2aにピン4、4を挿入すべく構成した、中間バー2と二つのジヨイント台1、1とからなるジヨイント式コンクリート型枠用セパレータ。

考案の詳細な説明

本考案は、一端に隣接コンクリー卜型枠の接当端面間に挿入して離脱可能に係止固定される係止部を有し、かつ、他端に長尺バー接続部を有する二つのジヨイント台と、これら二つのジヨイント台の接続部にピンを介してその長手方向両端部を接合可能な中間バーとからなるジヨイント式コンクリー卜型枠用セパレータに関する。

かかるセパレータは、旧来の全長が断面円形のロツド状のものに比して、型枠のコンクリート受止面にロツド端部挿入用の貫通孔を設けなくても良い、セパレータの型枠に対する連拮と隣接型枠同志の連結とを同時に行なえる等の利点の他、ジヨイント台としては、一品種多量生産が可能であり、製品コストを低減できるという利点がある。

しかしながら、作業現場第によつて使用すべきセパレークの長さが相違したり、或いは同一作業現場であつても上部巾と下部巾の異なる断面台形状の山留めコンクリート壁を作成する際に種々長さのセパレータを用意しなければならない場合に対処すべく、前記中間バーをして、長さの互いに異なる多種類のものを製造し、かつこれを現場に搬入して、いちいち、適当な長さのものを選択使用したり、或いは中間バーを二つ乃至三つに分割して製造し、それらのピン長続両所をいちいち選定することにより、セパレータ長さを調整すべくなしていた。従つて、これら何れの場合も、中間バーについて一品種多量生産によるコストダウンが期待できず、又、その取扱い、管理むよび前記選択、選定が種めて煩わしく、かつセパレータ長さの微調整が困難で、調整範囲に限界があつた。

本考案は、かかる実情に鑑みて、中間バーにつき、殊にその製造段階にむいて一品種多量生産を可能にしてコストダウンを図るとともにその取扱い、管理も容易にでき、かつセパレータ長さの調整が容易に、しかもその調整範囲を微小な間隔できるジヨイント式コンクリート型枠用セパレータを提供せんとするものである。

本考案によるジヨイント式コンクリート型枠用セパレータは、前記両ジヨイント台の名接続部夫々にその長手方向に適宜ピツチで複数のピン接合孔を設けるとともに、前記中間バーは、一定の長尺物で、かつ、その長手方向に全長に亘つて、前記両ジヨイント台に形成したピン接合孔のピッチと異なるピッチで多数のピン接合孔を形成し、前記ジヨイント台のピン接合孔と必要寸法に切断した中間バーのピン接合孔との選定した孔にピンを挿入すべく構成した、中間バーと二つのジヨイント台とからなることを特徴とする。

つまり、中間バーは、製造段階において、種々の場合において必要となる種々長さのうち最大長さに相当する一定長さの長尺物とし、かつ、その長手方向に全長に亘つて、前記ジヨイント台に形成したピン接合孔のピツチと異なるピツチで多数のピン接合孔を形成して、一品種多量生産しておき、かつこの一定長の長尺中間バーを一括して作業現場に搬入し、現場で必要な任意長さに均断したのち二つのジヨイント台に接続してセパレータを構成する訳である。

これによれば、ジヨイント台は勿論、中間バーも一品種多量生産で賄なうことがてきるため、大巾なコストタウンが図れるとともに、中間バーのすべてが一定長であるため取扱い、管理が非常に容易であり、しかも、適用箇所に見合つた長さに任意に切断するめ、多数種の中から最適のものを一つだけ選択すろといつた煩わしさも解消できる。

更に、ジヨイント台と中間バーの双方に互いにピッチの相なるピン接合孔を設けてあつて、これら両孔の位置選択により、セパレータ長さの微調整が行なえる、言わば、中間バー切断による粗調整と互いにピツチの異なる孔位置選択による微調整との二段調整を、適用箇所毎に実施するものてあるから、調整範囲を大きく拡大し得、所望の非常に正確なセパレータ長さ調整が可能となる。

以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。

選択の帯状体の一端部を、隣接コンクリート型枠当端面間に挿入されるべき扁平な係止部1aに、かつ他端を屈曲して後述中間バー2に対する断面Uの字状の接続部1cに形成してあるジヨイント台1において、前記係止部1aの中央部にはUクリツプ挿入用孔1bが、接読部1cの左右両側片には、夫々その長手方向に一定ピツチ(15mm)で複数のピン接合孔1d……が同一位相箇所に穿設されている。一方、鋼材から、使用されるべき長さの最大長さに相当する一定長さをもつ状態で断面Uの字状に形成された長尺な中間バー2の、左右両側片には、夫々その長手方向に、前記ピン接合孔1dのピツチよりもやゝ大きい一定ピツチ(20mm)で多数のピン接合孔2a……が同一位相箇所に穿設されている。(第3図イ)。

第4図の如くコンクリート打設相当箇所の両側において、夫々上下、左右に複数の型枠3……が隣接配置され、一方の型枠3……群は鉛直姿勢に、他方の型枠3……群は傾斜姿勢となつており、断面台形状のコンクリート製山留め壁を作成するようになつている。

而して、前記二つのジヨイント台1、1と、中間バー2との接合よりなるセパレータは、その両端の係止部1a、1aが夫々上下に隣接する型枠3、3間に挿入固定されて両側型枠3、3を互いに一定姿勢に固定保持する後目をなす訳であるが、セパレータの長さは、下から上に向うにつれて順次短いものが必要となる、そこて第3図イに示す前記一定長尺な中間バー2を、現場において、必要とされるだいたいの長さ相当箇所において切断し、子め長さの粗調整を行なつておく。そして、このように切断された種々長さの中間バー2の両端に対し、前記二つのジヨイント台1、1をピン4、4を介して接合する(第3図ロ~ハ)。この接合に際し、ジヨイント台1、1側の接続部1c、1cの孔1d、1d……のうち適当なものを選択するとともに、切断された中間バー2の孔2a……のうち適当なものを選択し、これら孔1d、1d、2a……を互いに合致させた状態でピン4、4を挿入することによりセパレータ全体の長さを徴調整する。この徴調整は一方の孔1dのピツチ(15mm)と他方の孔2aのピツチ(20mm)との差長さ(5mm)において可能である、このようにして種々長さのセパレークを用意しておく。

前記型枠3は、金属製で箱状に形成されており、その開口部が外側に面する状態に配設されるものであるが、その上下両側粋部分3a、3aには、前記係止部1aの孔1bに対応するUクリツブ挿入用孔3b、3bが穿設されている。

従つて、各係止部1a、1aを挟み込む状態でかつ各孔1b、3b、3b……が合致する状態で下方の型枠3、3に上方の型枠3、3を装置し、各孔1b、3b、3b……にUクリツプ5、5を共通に挿入したのち、90度回転させてセパレータを両隣接型枠3、3……間に固定連結すると同時に両隣接型枠3、3……同志を連結する。

以上の作業を下方から上方に向けて順次操返し、断面台形状のコンクリート打設空間が形成される状態で両側型枠3、3……群を互いに連結保持する。

図面の簡単な説明

図面は本考案に係るジヨイント式コンクリート型粋用セパレータの実施例を示し、第1図は一部切欠要部拡大側面図、第2図は一部切欠要部拡大平面図、第3図イは一定長の中間バーを、口~ニは任意長さに切断した各種長さの中間バーとジヨイント台との連結状態を、夫々示す側面図、第4図は型枠とセパレータとの連結状態を示す略側面図である。

1……ジヨイント台、1a……係止部、1c……接続部、1d……ピン接合孔、2……中間バー、2a……ピン接合孔、4……ピン。

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

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公報(2)

〈11〉日本国特許庁(JP)

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭55-44117

〈51〉Int.Cl.3E 04 G 17/12 17/08 識別記号 庁内整理番号 6702-2E 6702-2E 〈24〉〈44〉公告 昭和55年(1980)10月16日

〈54〉コンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具

〈21〉実願 昭51-148385

〈22〉出願 昭51(1976)11月2日

公開 昭53-65226

〈43〉昭53(1978)6月1日

〈72〉考案者 亀井嘉征

大分市原川3丁目2番11号

〈71〉出願人 亀井嘉征

大分市原川3丁目2番11号

〈54〉代理人 弁理士 北村修 外1名

〈57〉実用新案登録請求の範囲。

〈1〉 所定間隔てて位置するコンクリート型枠に対する一対のジヨイント台2、2の中間に位置してこれら両ジヨイント台2、2を互いに接続する中間接続金具であつて、長手方向に沿う凹部を一体的に形成するとともに、少なくども長手方向両端寄り位置において、夫々、前記両ジヨイント台2、2に対する接続部3'、3'を、その長手方向に沿つて適当間隔隔てて復数個形成してあることを特徴とするコンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具。

〈2〉 前記補強凹部は、金具長手方向全長に亙つて、断面U字状又はほほU字状に形成されたものである実用新案登録請求の範囲〈1〉項記載のコンクート型枠用セパレータの伸縮調整部中間接続金具。

〈3〉 前記接続部3'、3'……は、ピン挿通孔に形成されたものである実用新案登録請求の範囲第〈1〉項又は第〈2〉項記載のコンクート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具。

〈4〉 内記接続部3'、3'……は、断面U字状又はほほU字状補強凹部の対向両側壁部において、同一位相間配に形成されたものである実用新案登録請求の範囲第〈2〉項又は第〈3〉項記載のコンクリート型枠用セパレータの伸縮調整実用中間接続金具。

考案の詳細な説明

本考案は、コンクリート打設相当空間を抉む状態で離間対向配置される一対のコンクリート型枠を互いに連結して、両型枠の姿勢、打設コンクリートの荷重に対抗する状態で安定させるために用いるセパレーダの改良に関する。

従来の、かかるセパレータは、その全体が一体物で構成されていたために、現場毎に対向型枠離間距離が異なる場合や、或いは同一現場でも、断面台形状の小留コンクリート壁を造成するときのように、対向型枠の離間距離が上方から下方にかけて順次長くなるといつた場合に対処させるためには、長さの異なる種々のセパレータを多数用意しておかなければならなかつた。而して、セパレータの長手方向両端部において一体形成されるところの、対向型枠に対するセパレータの両ジヨイント部は、それらの間に位置して両者を一体連結している中間バー部に比べて、一般に形状が複雑なものになる傾向があり、長さの異なる各種の一体物セパレータについて、その長手方向両端部にジヨイント部を形成加工する作業は、長さの異なるもの毎に、例えばその固定支持力おいて微妙に相したリ、或いは、その中間バー部に補強用の凹部を一体形成するに際しても、その長さが、セパレータ長さの異なるもの毎に変化し、それ故凹部形成加工具も種々のものが必要になるといつた具合に、製造作業性の面で不利であるとともに、一体物セパレータのうちには、これを対向型枠間距離の変化に対応して長さを種々異にして製造したにも荷わらず、製造公差によつて使用できないものがでてくることがあつた。

本考案は、かかる実情に結みて、前記中間バー部を、その両端のジヨイント部から分離することによリ、上記不配合を解消せんとしたものである。

即ら、本考案は、所定間隔隔てて位置するコンクリート型枠に対する一対のジヨイント台の中間に位置してこれら両ジヨイント台を互いに接続する中間接続金具に関し、その長手方向に沿う凹条とした補強凹部を一体的に形成するとともに、少なくとも長手方向両端寄り位置において、夫々、前記両ジヨイント台に対する接続部を、その長手方向に沿つて適当間隔隔てて複数個形成してあることを特徴とする。

これによれば、前記複数個の接続部のうち、適当なものを選択して、この中間接続金具の両端部を一対のジヨイント台に接続することにより、種々長さのセパレータを構成することができ、対向型枠の離間距離変化に、適切かつ簡単に対処することができる。

又、補強凹部を金具長手方向全長に亙つて形成したものでは、この中間接続金具を製造するに当つて、非常に長大なものを補強凹部を有する状態で生産して、これを必要長さに切ることによつて多数の中間接続金具が一挙に作成できるため、製造作業能率の向上およびコストダウンを図ることができる。

尚、隣接接続部間距離を比較的小さくすることによつて、セパレータ長さを微調整することを可能にし、中間接続金具に生しる製造公差を吸収できる。

更に副次効果として、ジヨイント台として一品種多量生産することが可能となり、ジヨイント台の作成を容易、安価に行なわせ得る利点もある。

以下、本考案の実施態様を図面に基づいて説明する。

第5図、第6図に示す如く、金属板から箱形に構成され、その開口部をコンクリート打設空間の外方部に向かわせる状態で上下に隣接配置されたコンクリート型枠5、5の周側板5'、5'の対向部分間に挿入位置して、Uクリツプ6によつて両型枠5、5とともに、連結されるべきジヨイント台2を二つ、第1図、第2図、第4図の如くその長手方向両端部において互いに接続すべき本案の中間接続金具3(第3図)は、断面U字状又はほぼU字状の補強凹部を長手方向全長に亙つて一体的に有すべく、比較的長尺な鋼版を折曲加工し、焼入れをして構成したものである。前記補強凹部の対向両側壁部には前記ジヨイント台2、2を接続するための一対の接続部3'、3'が、各組が同一位相個所に位置する状態で、長手方向の全長範囲において長手方向に沿つて適当等間隔おきに、ピン挿通孔として、多数組穿形成されている。

前記各ジヨイント台2は、中間接続金具3の端部に下方から密接外嵌するための、接続金具3の断面形状と相似の断面形状を有する折曲部分と、前記隣接型枠5、5間に挿入位置される扁平部分1とを一体連設した鋼板を焼入れして構成してまる。各ジヨイント台2の折曲部分の対向両側壁部には、一対の被接続部2'、2'が、各組が同一位相個所に位置する状態で、長手方向に沿つて、前記接続部3'、3'の長手方向隣接間隔よりも小さい適当等間隔おきに、ピン挿通孔として多数組穿設形成されている。

而して、中間接続金具3の両端部に対し、両ジヨイント台2、2を外嵌させ、かつ頭付さ連結ピン4、4を、互いに位相合致させたピン挿通孔としての被接続部2'、2'……および接続部3'、3'……に共通に挿入して三者を接続し、もつて型枠用セパレータを構成するものである。

セパレータの全長は、ピン4、4を挿通すべき接続部3'、3'……と被接続部2'、2'との任意の選択によつて、変更調整できるものであるが、接続部3'、3'、被接続部2'、2'が長手方向において多数設けられていることにより、大きな範囲にわたつての組調整が可能であるとともに、長手方向隣接間隔が両者で互いに異なつているために、微調整も可能となつている。

前記ジヨイント台2の扁平部分1には、隣接型枠5、5の周側板5'、5'対向部分において同一位相個所に形成した透孔7、7と合致する位置に、透孔1'が形成されていて、これら三つの透孔7、7、1'に対して前記Uクリツプ6を、第6図鎖線8の位置においてその先端6'から、共通に挿通したのち、実線の位置まで回転し、挟着部6"をもつて型枠5、5同志を連結すると同時に、連結された型枠5、5に対してセパレータを連結するものである。

図面の簡単な説明

図面は本考案に係るコンクリート型枠用セパレータの伸縮調整用中間接続金具しの実施の態様を図示し、第1図、第2図、第4図は夫々、両端にジヨイント台を接続した状態の側面図、平面図、およ1図A-B線断面図、第3図は中間接続金具の全体側面図、第5図、第6図はジヨイント台の隣接続枠に対する連結状態の側面図と平面図である。

2……ジヨイント台3'……接続部。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

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一覧表

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仮処分後 Tバー納品明細書

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実用新案公報

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実用新案公報

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